北海道電力が2024年度から常時バックアップ廃止へ

北海道電力は2023年11月15日、2024年度の常時バックアップを取り扱わないと発表した。豊富な電源を持たない新電力でも電気販売事業に参入することを支えてきた「常時バックアップ」が終わることは、何を意味しているのか。

 北海道電力(以下北電)が常時バックアップ廃止を決定したのは、電力・ガス取引監視等委員会(以下監視委員会)が北電の電力卸売りの内外無差別が確保されていると評価されたからだ。

 監視委員会は6月27日に開催した第86回制度設計専門会合で、大手電力各社の卸売りの内外無差別の評価結果を公表(「現時点における旧一般電気事業者の内外無差別な卸売の評価結果(案)等について」)し、これを受けて、経済産業省は10月19日に常時バックアップの運用ルールを定める「適正な電力取引についての指針(適取ガイドライン)」の改定を発表。大手電力が他の小売電気事業者との取引条件を、自社グループの小売部門との取引に比べて不利に設定していないことを電力・ガス取引監視委員会が確認した場合は、常時バックアップを行う必要がないと追記した。このような経緯から、北電は常時バックアップを廃止することができたのだ。

電力取引の内外無差別

 内外無差別とは、大手電力各社が自社小売部門と新電力など社外の卸先を公平に扱うことである。国内のほとんどの発電所保有する大手電力が、自社小売部門にだけ安価に電源を供給しているとすれば、新電力が不利になるからだ。

 監視委員会は内外無差別について、大手電力各社の取引を細かくチェックしてきた。2020年9月には、大手電力がそろって社内外・グループ内外を問わず無差別に電力卸販売を行うことを公的に約束している(内外無差別コミットメント)。2022年3月には、監視委員会が大手電力各社に「卸標準メニュー」の用意を求める方向性を示した。

 こうした動きを受けて、東北電力関西電力、JERAなどは卸取引の全量もしくは一部に入札を採用した。大手電力で唯一、卸電力の全量を第三者であるブローカーを経由した取引に切り替えたのが北電だ(「北電の群を抜く内外無差別対応、卸電力取引を社内外問わずブローカーに一本化」)。

 北電は2023年度取引分から、電力ブローカーである株式会社「enechain」のプラットフォーム上で卸電力の全量を取引する形に切り替えた。北電の売り注文や成約実績はリアルタイムで公表され、単価などの条件は購入量を問わず、自社小売部門でも新電力でも同一だ。この方法が監視委員会に「内外無差別が担保されている」と認められたわけだ。

 常時バックアップは2000年の部分自由化時に、十分な電源を持たない新規参入の新電力を支援するためにスタートした臨時の制度措置だ。ところが近年、資源価格の上昇により電力市場の価格が高騰した際、安価な常時バックアップを課題に調達し、市場に転売する新電力の存在が問題となっていた。大手電力の卸売りの内外無差別が確保されれば、常時バックアップがなくなるのは既定路線となっていたのである。

常時バックアップは自由競争ではありえない制度

 なぜ常時バックアップは自由競争ではありえない制度なのか。それは、常時バックアップが電力の30分同時同量を達成しにくい新規参入者への支援措置であり、常時バックアップが前日まで固定価格で、数量を変えることのできる卸契約であるからだ。

 常時バックアップを利用する新電力は大手電力に対して、前日9時までに利用量に関する通告を行う。JEPXスポット市場価格の入札期限が前日10時なので、自社需要やJEPXの価格を比較しながら、直前に安い方の電源を調達できるというわけだ。

 

 

 このように利用量を前日に通告すればいい常時バックアップ契約は、価格変動の大きな電力市場と組み合わせることで新電力にとっておいしい仕組みとなっている。電力市場価格が安ければ市場から購入すればいいし、電力市場価格が高ければ固定価格の常時バックアップを購入すればいい。多く買いすぎたとしても、常時バックアップ電力を市場で転売すれば、そこでも利益を得ることができるのだ。どう転んでも損をしない。これが自由競争環境では、常時バックアップはありえないという理由だ。

 

電力・ガス取引監視等委員会第75回 制度設計専門会合事務局提出資料「常時バックアップの利用実態について」(令和4年7月26日(火))より

 

 常時バックアップが存在しているのは、本来は豊富な電源を持たない新規参入者が、様々な負荷率のお客様を獲得するために不足する部分を、大手電力に格安でバックアップさせ同時同量を達成し、電力を安定供給するためだ。できるだけ多くの新電力を参入させて、電力全面自由化をPRしたい制度設計者の意図を反映した制度といえるのだろう。

 

常時バックアップがなくなることは規定路線

 こうした常時バックアップが廃止され、ベースロード市場に移行するというのは、電気事業関係者にとって既定路線となっている。問題は常時バックアップから相対契約、ベースロード市場へスムーズに移行できるかどうかである。

 新電力にとって大手電力の内外無差別が担保され、電力市場で平等の環境で競争できるのが理想といえる。だからこそ、北電の一連の取り組みが注目されるのである。

 北電以外の大手電力会社では常時バックアップは廃止されていないが、いずれ内外無差別が徹底され、新電力が常時バックアップという利権に頼らずに大手電力会社と競争する時代が来るだろう。